嘘のはじまり

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  だったら、篤哉の好きにさせておけばいい。 私は、何もしなくていいって言うんだし。 「とりあえず、仕事しよ」 「朝未?」 「私は何もしなくていーんでしょ?もう、篤哉と香子で好きな様にして。私知らない」 なる様になればいい。 あの憐みの視線、腫れ物に触る様な空気から解放されるなら、もう何でもいい。どうでもいい。 「りょーかい」 「楽しそうね?」 「ふふふふふ」 しっかし。 相変わらず、無駄にモテる男よね?篤哉って。 篤哉に告白された。 それだけで、こうも視線が変わるかね? や、昔っからだけどさ。 だからこそ、香子も職場ではあえての無関係装ってるんだろうし。 実際、私も、篤哉と付き合ってた頃、イロイロあったしな。 ま、今も昔も、外野に負けてやる気は欠片もないけどね? にしても。 フラれて24時間も経ってないってのに、私には落ち込む時間も満足に与えられないのね? 社会人て辛いわ。 しかも、今日、火曜日よ?? 本当、月曜日に別れ話とか本気で勘弁して欲しい。 絶対にイヤガラセとしか思えないわ。 * * * 「胸でも貸そうか?」 やっとの金曜、就業時間。 背後からの声に、大きなため息一つ。 「冗談でしょ」 「一人の方がいいなら、まぁ、いいけど」 「……仮に誰かに居て欲しいと思ったとしても、ソレは絶対にアンタでない事だけは確かよ」 「ま、そーだよな」 ゲーム開始から、今日で4日目。 篤哉は、さりげなく皆の前で私に声をかける。 今迄、一切の会話をしてなかったから、些細な会話でもソレは充分に周りの興味をひいてる。 でも、今は誰も居ない。 エレベーターの中。 偶然なのか、狙われたのか、二人きり。 「じゃあ、八つ当たりでもしたくなったら呼べよ?」 「八つ当たり、ねぇ?」 過去、おんなじ事されてるから、純粋に八つ当たりは出来そうにないけど、いいかしらね?? 「二、三発殴っていいなら」 「好きなだけ殴っていいよ」 言われた言葉に、思わず苦笑。 「今更?」 「今更」 別れたのは6年前。 付き合ってたのは、4年間。 だからの、言葉。 今日は金曜日で、明日は休み。 やっと、失恋に浸れる時間。 ソレを解ってるからこその、篤哉の言葉。 こーゆーとこが、好きだった。 核心には触れないクセに、そっと受け止めようとしてくれるとこが。 「相変わらず」 「ん?」 狡い男。  
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