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「遥くん、手、つかまなくても大丈夫……」
「本宮?」
「もう大丈夫……」
「……」
遥くんは、あたしの手をそっと離し、靴箱へ。
遥くんの、外履きのスニーカーが、無造作に脱ぎ捨ててある。
ずいぶん急いでいたのだろう。
あたしも、自分の外履きを取り出す。
履きかえて、外へ。
暗いなかでも、ほのかに辺りを照らす街灯が、風で揺れる木々をぼんやりと映し出している。
「ごめん、本宮。俺、勝手なこと……」
遥くんの輪郭が、ぼやけて見える。
あたしが何の反応も出来ずにいると、遥くんは「行こうか」と、促(うなが)した。
振り返っちゃ、だめ。
その先には、きっと誰もいないから。
先輩が、いるはずないから。
なのに、どうして、先輩じゃなきゃだめなの?
忘れられる日は来るの?
こんなに――
「莉々!」
名前を叫ばれ、振り向くと、いるはずのない人がいた。
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