第1章

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ゆっくり顔を上げたその人は… やっぱり…彼でした 久しぶりに見る彼は ちょっとやつれて疲れた顔をしてて 私は唇を噛みしめ 泣かない! 普通にしてなくちゃ でも…動かない体 彼が安心したように笑みをこぼし こちらへ向かって来て そして普通に助手席のドアを開ける 「久しぶり! 元気だった?」 「…雨…」 「ん?」 「雨降ってるのに 風邪ひいたら大変でしょ!」 「…クシュン…急に降って来て… ハハ…おふくろみたい」 「…私…お母さんだもん 若い人みたら母親目線になる タオルあったと思うから…」 と車を降り後ろからバスタオルを出していると 背中が暖かくなり胸の前に彼の手が 「会いたかった」 慌てて離れ タオルを渡し 「ずっと入れっぱなしだけど よかったら使って下さい」 「会ってすぐで しかも毎回で悪いんだけど…オレ運転させて?」 首を振り 「これから出掛けるの 今タクシー呼びます」 携帯を手にすると、取り上げられて 「ムリ!」 と言って私を助手席に座らせ 自分は運転席に座る 「ごめん…濡れちゃったね」 とタオルで私の頭を軽く拭いて 「やっぱり思った通り すごく似合ってる…使ってくれてありがとう」 そう言って帽子をとり タオルを肩に掛け車を走らせる こんな態度を取るつもりはなかった でも… しばらく無言で運転していた彼 「質問するから答えて!」 「……」 「オレ…なんか怒らせる事した?」 「……」 「誰かに何か言われた?」 「……」 「オレ…嫌われてる?」 「えっ!」 「娘さんがファンってだけで ドーム呼んだのも、サプライズも 迷惑だった?」 「そんな事…それは本当に感謝してます」 「じゃあ 電話もメールも拒否るって?」 「……」 がまんしていた涙もとうとう限界で 溢れ出し 噛みしめた唇からは血の味… ギュッとショールを握りしめ 必死に涙と戦う 「ごめん…責めてるんじゃないんだ オレわからないんだよ 電話してもダメで、すぐに会いに来たかったけど…来れなくて…」 「今日は休みで、たまたま通っただけ」 「そんな事聞いてるんじゃない!」
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