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「主殿」
「その呼び名はやめてください。私は貴方の契約者ではあっても、主にはなれない。
そういう者にそのように呼ばれるのは、腹が立ちます」
ユーリスが、意外と穏やかな顔で言う。
「では、なんと?」
「ユーリスで構いません」
「では、ユーリス。私は、お前を囮にするつもりではいる。だが、お前を無駄にするつもりはない。
お前には生きて、柱の修復をしてもらわねばならない。
その為に、力をつくそう」
「…分かりました、それで構いません」
新たな契約でも結んだかのように、ユーリスは納得して笑う。
その顔にも、アドルファスは苛立った。
納得されたことに、腹が立った。
「お前の守りたい者が、何を守りたいのか。それすらも理解しない。そういう所も、あのバカにそっくりだ」
呟きは、吐き捨てるようだった。
そのまま姿を消したアドルファスに、ユーリスは言う言葉がない。
言える事はないと、分かっている。
「分かっていても、怖いのですよ。臆病ですから。失う事が、怖いんですよ」
己を抱きしめるユーリスは、頼りなく外を見る。
月が、静かに部屋を照らしていた。
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