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そう嫌味に言うが、その実顔は嬉しそうでもあった。
「奴はとにかく、人を隔てない男だった。
人間に限らない。魔族も天使も、分けない男だったんだ。
弱さも、強さも、優しさも、脆さも。
全部を相手に晒して、それでも笑っていられる男だった」
昔を懐かしむように、アドルファスの瞳が僅かに細められる。
幸せな、寂しい表情だった。
「奴は他人の痛みを考える男だった。だからこそ、とんでもない事を考えるようになった」
「とんでもない事?」
ユーリスの視線に真剣に頷き、アドルファスは暗い顔をする。
後悔するような、感情のない顔を。
「人界を真ん中に、天界と魔界に分ける大魔法だ」
吐き捨てるような言葉に、三人は顔を見合わせる。
信じられない事を聞いたような顔だった。
ただ一人、ユーリスだけが表情を沈める。
「可能、なのだろうか。そんな大魔法、一人の人間が起こせるものなのか?」
「一人ではない。
奴が考えた魔法は、途方もないものだ。
天使で最も強い者と、魔族で一番強い者を礎に、世界を分ける壁を作るというものだ」
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