第2章

27/29
前へ
/41ページ
次へ
「何者かが召喚の術を使って、魔物をこちらに引き入れて可能性がある。 そんな事をすれば、壁に傷がつくからな。 その傷が広がり続ければ」 「壁が消え、魔物がこちらで好き放題に暴れる?」 「人間は滅ぶかもしれないな」  恐ろしい想像に、ユーリスは席を立つ。  そして、怖いくらいの冷たい目をした。 「阻止、します」 「そのつもりだ」 「…私はそいつらをおびき寄せる、餌ですね」  ユーリスが、静かに言う言葉を、アドルファスは否定しない。  だが、ユーリスもその事に動揺したり、怒りを見せたりはしなかった。  ただ静かに、アドルファスの傍まで歩みを進めた。 「構いません、それで」 「なに?」 「必要なら、私の命はどう使っても構いません。 その代り、この国と、私の大切な人を護る力と、知識を貸してください」  静かに、アドルファスはユーリスを見る。  何の淀みもない、真っ直ぐな緑色の瞳。  腹が立つ、澄み切った愚行。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加