第2章

29/29
前へ
/41ページ
次へ
「主殿」 「その呼び名はやめてください。私は貴方の契約者ではあっても、主にはなれない。 そういう者にそのように呼ばれるのは、腹が立ちます」  ユーリスが、意外と穏やかな顔で言う。 「では、なんと?」 「ユーリスで構いません」 「では、ユーリス。私は、お前を囮にするつもりではいる。だが、お前を無駄にするつもりはない。 お前には生きて、柱の修復をしてもらわねばならない。 その為に、力をつくそう」 「…分かりました、それで構いません」  新たな契約でも結んだかのように、ユーリスは納得して笑う。  その顔にも、アドルファスは苛立った。  納得されたことに、腹が立った。 「お前の守りたい者が、何を守りたいのか。それすらも理解しない。そういう所も、あのバカにそっくりだ」  呟きは、吐き捨てるようだった。  そのまま姿を消したアドルファスに、ユーリスは言う言葉がない。  言える事はないと、分かっている。 「分かっていても、怖いのですよ。臆病ですから。失う事が、怖いんですよ」  己を抱きしめるユーリスは、頼りなく外を見る。  月が、静かに部屋を照らしていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加