《どうしてアタシだけ?》

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「遅い」 意図せず牛歩作戦を決行していたらしいあたしの顔を見るなり、 綾瀬――先生なんて呼んでられっか―― は、アーモンド形の瞳を剣呑に細めて短く吐き捨てた。 向かい合わせにずらりと並べられたパソコンデスクに頬杖をつき、 椅子に浅く腰掛けて長い足を組む姿が絵になるってどうよ? イヤミか! もちろん、それに胸をときめかすようなあたくしではありませんが? ……て言うか、 この状況でそんな気になれるような人間は地球上にはいないと思う。 だって冷気放ってるし。 液体窒素か!  ってくらい放っているし!! 「……すみません」 吐息さえ凍らせてしまいそうな冷え冷えとした空気に気圧されて、 胸中で盛大なため息を吐き出しながら謝ると、 綾瀬は黒いセルフレームの眼鏡を外してジャケットの胸ポケットに収め、 隣の机の天板を人差し指でちょんと突っついた。 ここに座れの意味ですね? 「失礼します」と、素直に従い。 けれどせめてもの反抗とばかりに、 身体と視線は机上のディスプレイへと真っ直ぐに向けてみたりして。 すると、
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