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「鎖にできることはありんせん…」
愛おしそうに相方の名前を呟く主。
「悔しんす、無力で……」
唇をキツく噛み締めて
「何が上級の遊男じゃ……何もできぬではないか……!」
「椿様……」
何も出来ないなんて悲しいことを言わないで下さい。
あなたは助けてくれたじゃないですか。
雨に濡れた冷たい地べたから、暖かい手で……
それはあなたの気休めだったのかもしれない。
幼子を放っておけないという気休め。
それでも、良かった。
こんなにも想っているのに届かない思いは儚くて。
あなたの目に映るのは『あの人』だけ。
伝えることはしないけれど、胸が詰まる悲しみを、あなたと思って受け入れよう。
優しい頃のあなたはもう居なくて、氷のような目で見つめる。
それを溶かしたのは同じ氷だった『鎖』
鎖に繋がれていた椿様を救ったのもまた、鎖だったのだ。
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