~序章~

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「成瀬」 呼ばれた声に振り向くと、 「熊田さん」 「よぉ」 仲間の熊田さんが片手を上げながら、歩いて来ていた。 隣にならんで歩き出す。 「お前大天使の試験受けるんだってな」 「えぇ、熊田さんは受けないんですか?」 「ん?俺はさ、大天使の器じゃねぇんだよな…その点、成瀬なら芯がぶれないから安心だし。成瀬大天使の側近にでも立候補するかな」 うーん、と伸びをしながら歩き続ける熊田さんを見ていた。 彼がそう言うなんて、意外だった。 「私だって器ではないですし、試験に通るかもわかりませんよ。それに貴方だって、素質十分だと思いますが。」 「いいんだよ、何事も言うだろ?家内安全には嫁が強い方が良いんだよ」 ニヤリと笑って僕を見るその姿に、 「僕は貴方の嫁じゃありません」 「照れてやんの」 「照れてません」 「顔が真っ赤だぜ?」 恥ずかしくなってしまって俯く。 そんな僕を気にする事もなく、熊田さんは肩を組んできた。 「うるさい」 「おっ。そんな言葉使って良いのかな?」 「うるさい」 「機嫌なおせよ。な?」 「うるさい…」 きっと、僕はこの人にずっと振り回されるんだ。 惚れた方が、負け そんな言葉を聞いたことがあるが。 「僕が大天使になったら、熊田さんは下僕にしてあげます」 きっと、それは正解だ。 「成瀬の下僕なら良いぜ。成瀬の何から何まで俺がしてやるよ」 耳元で囁かれると、 「やっぱり、やめます!」 「おい!成瀬~、どこ行くんだよ」 熊田さんを置いて、足早に近くの空き部屋に入る。 足に力が入らなくて、ズルズルと壁伝いに座り込む。 「熊田さんのバカ」 どうして僕は、あの人の事をこんなに… 「好きになってしまったんだろう…」 胸が苦しい… .
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