思龍

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それから数日、内藤小十郎は、嘉納葵のことが気になっていた。 それよりも、もっと気がかりなのは、郷里から持ってきた金銭も底がついてくる。 そのことを相談に一階へと降りて行く。 いつもいる番頭、吉がいない、お糸が店番をしていた。 しばらく様子を見ていたら、何やら落ち着かないようである。小十郎は訳を聞いてみる。 船荷に不手際があり、そちらに店の者全員行ってるとのことであった。 「今日は、勝様がお越しになるので困っていたところです。」 勝様とは勝安芳(海舟)のことである。 「なぜに?」 「お茶をたてるのに水を汲みに行けないのです。」 「あぁ、音羽の滝のことだな」 「そうでございます。」 「ならば、わたしが汲みに行ってあげましょう。」 「そうしてもらえたら有難いのですが、そんなことまで内藤様に頼めませんですから」 「いゃいゃ、構わぬ」 **
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