長州の景

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しかし、縫うにも外科針がない、葵の裁縫道具箱から大きめな針に木綿糸をとおす。 それとお湯を沸かすようにいう。 小十郎は、伊藤の着衣をはがし、傷口を調べた。 その箇所二十カ所以上はある。 葵は、手術助手の位置についた。 その葵に、 「脈を調べていてくれ」 小十郎は命じた。 以蔵に、焼酎をもってこさせる。それと、桶を何個か用意させて。 家族の者に、患者、伊藤の身体を動かぬように押さえさせた。 小十郎は、汗どめの鉢巻きを締めて、傷口の縫合にとりかかった。 半刻たったが、傷口の半分も縫いきれない。 「脈は、大丈夫か、」 助手の葵に、何度か、聞いた。 葵は、焼酎で傷口を洗いながらの作業である。 時々、小十郎の額の汗を拭ってやる。 頼もしい助手である。 意識が朦朧としているとはいえ、容赦のない縫合は、さすがに激痛をともなう、患者は、その度に呻いた。 **
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