11人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、縫うにも外科針がない、葵の裁縫道具箱から大きめな針に木綿糸をとおす。
それとお湯を沸かすようにいう。
小十郎は、伊藤の着衣をはがし、傷口を調べた。
その箇所二十カ所以上はある。
葵は、手術助手の位置についた。
その葵に、
「脈を調べていてくれ」
小十郎は命じた。
以蔵に、焼酎をもってこさせる。それと、桶を何個か用意させて。
家族の者に、患者、伊藤の身体を動かぬように押さえさせた。
小十郎は、汗どめの鉢巻きを締めて、傷口の縫合にとりかかった。
半刻たったが、傷口の半分も縫いきれない。
「脈は、大丈夫か、」
助手の葵に、何度か、聞いた。
葵は、焼酎で傷口を洗いながらの作業である。
時々、小十郎の額の汗を拭ってやる。
頼もしい助手である。
意識が朦朧としているとはいえ、容赦のない縫合は、さすがに激痛をともなう、患者は、その度に呻いた。
**
最初のコメントを投稿しよう!