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小十郎は、腰から二本指しを掛け台に置いて着座する。
葵は、旅具を整理していた。
小十郎は、葵を正面に座らせて、黒木綿の紋服の懐から、桂小五郎に預かった紫布を葵の膝に置き、布を拡げて二十両を見せて。
「これを、葵どのに預けます。」
「はい、預かりました。」
葵は、一言返事しただけで、小十郎になにも聞かなかった。
葵としてみれば、この先、殿方が事をなすときに使えと、小十郎が申していると思っていた。
その昔、殿方が合戦とあらば、甲冑や馬を買う金と捉えていた。
武家の娘らしい考えである。
小十郎は、違っていた、何者かに斬られるやも知れない。そのあとの葵を案じてのことであった。
双方の思いは、違えども、夫婦の阿吽の呼吸になってきてるようである。
このさき長崎で、小十郎と葵に、何が待ち受けていようが、二人の瞳には、雲一つない青空が映えているようであった。
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