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夢から醒めて、一瞬私は炎のなかにいるのかと思った。
だけど真っ赤な教室は、夕暮れによって彩られていただけだった。
なにかとても、切ない夢を見た。誰かを追いかける夢だった。いくら追いかけても、近づかなかった。
寝ぼけた頭が機能しないうちに、なにかが私の領域に踏み込む。
これは…海の足音だ。何回も聞いた、心地よささえ感じる響きだ。
コンクリートの廊下と下履きのゴムのぶつかる音が、私の心臓をも柔らかく踏みつける。一気に目を醒まされた。
音が近づくにつれ心拍も早まってゆく。
誰もいない教室に溜まってく、私の鼓動。
扉の外の人影が、息づかいが、癖っ毛の髪が- 海の気配がすぐそこにある。
だめ。扉を開けないで。
私の、あなたへの鼓動が、洪水のように流れていって、あなたをのみ込んでしまうから。
その思いとは裏腹に、扉はカラカラと陽気なリズムを奏でながら開く。
海は洪水をもろともせず、全身を紅に染めている。真っ赤な海。
私をみる黄昏の目に、また心臓がドクリと跳ねる。
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