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「美雨」
何回も聞いたその声は、ゆっくりと開かれた口から優しく私の耳へ辿りついて。
「海」
私も自然と、名前を呼んでいた。
「私ね、海が来てくれるって信じてた。だからずっと、待ってた」
おおきな身体が、それの倍の大きさの影とともに私に向かってくる。
そして目の前が一瞬暗くなって、私のすべてが暖かさに包まれた。
「なんで泣いてんの?」
あ、ほんとだ。私の頬にはいつの間にか暖かい涙が流れていた。
それを、海のしなやかな手がそっとすくう。
海の、海のくせに薄茶色の綺麗な瞳が、揺れることなく私を見つめてきた。私も負けじと海を見つめ返す。
「海は、広くて大きいね」
「どっちの海?」
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