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「どっちもだよ」
「そっか」
柔らかく微笑む海は、誰よりも広く大きく見えたもの。
いまは、すべてが暖かいよ。海のおかげ。
心の中でそう伝えて、海の胸に頭をスリスリ擦りつける。
「…帰ろっか、美雨さん」
「うん、海くん」
蛍みたいな笑顔が私をすっぽり包む。
いつもと同じように私の手をとって、優しい強さでひいてくれる。
自然と足が動き出す。まるで海のなかを歩いているかのよう。
海の口から、私の口から、空気の泡がプクプクと海面へと逃げていく。
「あ、あのね」
伝えなくちゃ。言わなくちゃ。言葉にしなきゃ。
「ごめんね。ありがとう」
ありがとう…ほんとうに、ありがとう-
たくさんの気持ちをぎゅっと詰めた言葉。
空気の泡と一緒になって逃げないように、大切に声にした言葉。
「こちらこそ、ごめん。ありがとう」
海が、穏やかに揺れている。
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