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笑美を抱いた後、俺は彼女とその愛犬を連れ、市内を車でランダムに走り続けていた。
季節は違うが、この感覚は“慧”として笑美と最後に会ったあの夜と似ている。
彼女を助手席に乗せ、伝わらない思いをひた隠しにして平然を装う。
初詣のため神社へと向かう車の中。
あの時も今と同じように、お互いが話題を探しながら過剰な程多弁になっていて・・・。
思いが擦れ違う抜け殻のセックスをした後ろめたさが、きっとお互いをそうさせていた。
「やっぱりこの街はいつ帰ってきても変わらないね。」
笑美は愛犬を抱き、車窓から見える景色を眺めながら笑顔を見せている。
無邪気に笑う笑美に対し、俺は「ああ」とか「そうだな」といった気のない返答しかしてやれなかった。
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