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「…………てさぁ。センセーは昔から良く言ってたよねぇ」
アレからウン十年…。幸いクビになることも無く、今では幼稚舎の責任者となった俺。
そんな幼稚舎の事務所に、俺なんて宝クジでも当たんなけりゃ泊まることも出来ないだろう『御宿 かわ@み』なんて高級旅館の饅頭をぶら下げて、ふらりと現れたのは……『オクヤマ』の会社に就職し、今では父親の片腕となってその名を轟かすようになった蒼麒くん。
目のあたりなんて昔からちっとも変わってなくて、ふんわりとした印象を保ち続けてる。
「どうした?急に……」
「んう?別に。久しぶりにセンセーの顔見とこっかなーって」
蒼麒は自分の茶碗に手酌でお茶を注ぎ、持ってきた饅頭の包装をペリペリ剥がしている。
「ふぅん…。ま、美味しい饅頭ありがとな」
「ん。……………………………………ねぇ、センセー?」
コトリと茶碗を置いて。蒼麒が語りかけてくる。
「なんだい?」
「俺さ……自分の信じる道……進んでいいんだよね?」
えええええええっ!!!!!
……あの蒼麒が………。ふてぶてしいまでにカワイクナイ(笑)あの蒼麒が弱音を吐くなんて!
でも……。
「蒼麒くん。君が『間違ってない』って思うんなら……信じて突き進んでいいんじゃないか?」
「………そっか。……そうだよね。うん、ありがとセンセー。俺行くね」
「また美味いモン持って顔見せに来いよ!」
「うん!」
満面の笑顔で走り去っていく教え子。
なんだか良く分からないけど……何かが彼の中で解決したのなら、それでいい。
頂戴した高級な饅頭は、やっぱり高級な味だったけど…安い番茶と一緒でも案外イケるもんだ。
窓から見える満開の桜を見ながら、ふとそんなことを考えていた。
後日。
蒼麒から俺の手元に届いたのは『結婚式の招待状』。
内容を見て、更に驚かされる。
……………流石。流石だよ、蒼麒!!
ついうっかり、職員室で大笑してしまい、先生方から白い目で見られてしまったけど……。
教え子の成長ってのは、嬉しいもんだ。
おわり
熱帯魚のチョット前のお話でした(笑)
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