夏の思い出 ぱーと わん♪

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夕方の早い時間から「お風呂入っちゃってね~」とか言われたし、お夕飯の始まった時間も早めだった。 だから、母親が夜に出掛ける予定でもあるのかな~なんてお気楽に考えていたんだ。 なのに、ほら行った行った!とばかりに母親に家から追い出されて、ぼう然としてる間に手を引かれて、家の前に停められた大型バスに乗せられて……はっと我に帰った。 「ちょっと待ったーー!!!」 「かず♪このバスすごいね~!りむじんばすっていうんだって。中はお部屋みたいだし、パーティができちゃいそう♪それに明日の朝には甲子園に着いちゃうなんて!すごいバスだね~そーくん♪」 「翡翠ちゃんに喜んでもらえて良かった~♪これ、ウチの親父のだからちょっと趣味が良くないんだよな」 派手過ぎるシャンデリアとか、ありえねぇだろ?とか笑ってるけど、コレって夜通し走って甲子園へ行く…夜行バスの個人所有版ってこと? 確かに、バスの中とは思えない座り心地の良い高級そうなソファやテーブルがあり、まるでリビングでくつろいでいるかのようにリラックスしている紅音と、相変わらず甲斐甲斐しく翡翠のお世話をしている紫峰がにっこり笑いながら手招きしてくれた。 「和輝、こっち。翡翠くんのとなりに座れよ。そのほうがいいだろ?」 「てか、俺、まだ行くって言ってないし!」 「和輝くん、そう言わずに行こうよ。開会式を見られるチャンスなんだぜ?」 「そうそう。翡翠ちゃんも一緒だし、なにか問題あるか?」 「……オオアリですけど」 バスの入口に立ち止まって俯いたまま動かない俺に、蒼麒と紫峰と紅音の3人は困って顔を見合わせていることだろう。 その時、家の前で母さんが手招きしているのが見えて…蒼麒はバスを降りてそちらに近寄っていった。 「和輝、これお義母さまから預かってきた。酔い止めの薬。和輝はこれが一番身体に合ってるからって。『大丈夫だから安心して楽しんできなさい』って…伝言もね」 ……そう。俺は子供の頃から乗り物に酔いやすい体質。 だから遠出って聞いて、乗り物を見るだけでも不安でいっぱいになってしまう。 甲子園に行けるのは嬉しかったんだけど、身体が拒否しちゃって…どうしても素直に「うん」って言えなかったんだ。
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