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「和輝、こっち。翡翠くんのとなりに座れよ。そのほうがいいだろ?」
オレがしーくんにエスコートしてもらった席に座った途端、隣ににじり寄ってきた紅ちゃんをぺぺぺっと追い払うと、コッチコッチって手招きして、カズを呼んでくれている。
「てか、俺、まだ行くって言ってないし!」
……あれれ?なんか雲行きが怪しいカンジ??
「和輝くん、そう言わずに行こうよ。開会式を見られるチャンスなんだぜ?」
追い払われたのに、それでもオレの少しでも側に来ようと必死な紅ちゃんも、カズに声をかけてくれたけど……。
「そうそう。翡翠ちゃんも一緒だし、なにか問題あるか?」
「……オオアリですけど」
そーちゃんの問い掛けに、不機嫌丸出しで答えたカズは…意固地モードに突入しちゃってた。いったいどーしたんだろう?
バスの入口に立ち止まって俯いたまま動かないカズに、そーちゃんたち3人は困ってしまってるみたい。
その時、カズママが手招きしているのが見えて…そーちゃんに知らせると、「行ってくるから」とそちらに向かってくれた。
「和輝、これお義母さまから預かってきた。酔い止めの薬。和輝はこれが一番身体に合ってるからって。『大丈夫だから安心して楽しんできなさい』って…伝言もね」
そうだった。
カズは子供の頃から乗り物に酔いやすい体質。
カズたちと甲子園に行けるのが嬉しすぎて、カズの身体のこと忘れるなんて…オレ、親友失格だよね。
そんな落ち込んだオレの背中をポンポンって優しく叩いて…しーくんがふわりと微笑んでくれたの。
だから、オレはオレに出来ることを頑張らなくちゃね。
「…ね、かず。ここに座って?お薬飲んで、俺と手をずっと繋いでいよう?そしたら怖いこと…きっと無いから」
「………うん」
きっと、カズだって嬉しいはずなの。
だから絶対に一緒に行かなくちゃ!
カズがこくりと薬を飲んだあと、静かに走り出した大型バス。
みんなで楽しくおしゃべりしていたら…カズがいつの間にかスヤスヤと眠ってしまって。
これは、そーちゃんにお任せしまーす!って言ったら、バスの下部にあるっていう仮眠室に、お姫様抱っこで、それはそれは大事そうに…世界に一つだけしかない宝物みたいに運ばれて行っちゃったの。
ホントにカズが大好きなんだねぇ…そーちゃん。
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