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紫峰 side
そんな和輝にコッチへおいでと手招きしたけれど、一向に動く気配がない。
「和輝、こっち。翡翠くんのとなりに座れよ。そのほうがいいだろ?」
座った翡翠ににじり寄ってくる紅さんを冷たく追い払い、場所を示すも、強張った顔はそのままだ。
「てか、俺、まだ行くって言ってないし!」
……え?
「和輝くん、そう言わずに行こうよ。開会式を見られるチャンスなんだぜ?」
紅さんも和輝に声をかけてくれたけど、彼の心は開いてはくれなかった。
「そうそう。翡翠ちゃんも一緒だし、なにか問題あるか?」
「……オオアリですけど」
蒼さんの問い掛けにすら、意固地なまでに拒否し続けているなんて…いったいどうしたというのだろう?
その時、一旦バスから降りた蒼さんが小さな箱を持って戻ってくると、和輝の側に立ち優しく肩を抱いた。
「和輝、これお義母さまから預かってきた。酔い止めの薬。和輝はこれが一番身体に合ってるからって。『大丈夫だから安心して楽しんできなさい』って…伝言もね」
ああ…なるほど。和輝は乗り物に弱いのか。
だから不安になってしまって、あんなに意固地に…。ごめんな。知らなかった。
同時に「お出かけが嬉しくて和輝の身体の事を忘れちゃってた…オレ親友失格なの」なんて落ち込んでしまった翡翠の背中を優しく叩けば、弱々しくも微笑んでくれた。
「…ね、かず。ここに座って?お薬飲んで、俺と手をずっと繋いでいよう?そしたら怖いこと…きっと無いから」
「………うん」
翡翠とカズがしっかりと手を繋ぐと、大型バスは静かに走り出した。
紅さんと翡翠がいつも以上に場を盛り上げたけれど、カズが眠ってしまったから、あとは蒼さんにお任せして。
そんなこんなで、残された俺たちもいつの間にか眠ってしまってたみたい。
翡翠くんの「わあぁぁ、甲子園球場だぁあぁぁ!」って声で俺は目を覚ました。
和輝が「ウルサイ」って言いながら起きてきたけど、顔色は悪くないし、あの様子ならきっと大丈夫だろう。
高校野球の開会式を5人で見て、それが終わればあちこち観光して周った。
まるで修学旅行みたいに楽しかったけど、ホテルでマクラ投げして遊んでた翡翠と和輝にお説教するっていうオプションまで付いてるとは…さすが蒼麒プロデュースは一味違うとみんなで笑ったのだった。
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