第1章  遭難

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四十歳くらいのその男は、 襟を開けたシャツに、 黒のチノパン姿という ラフな格好だった。 もう何ヶ月も切っていないであろう 髪の毛と、 うっすらと伸びた髭が、 男の無精さを物語っている。 しかし、鍛え上げられた その体格の良さは、 皺だらけのシャツの上からでも、 容易に見てとれた。 「これは、鮫島警部」 制服警官が、男に向かって 敬礼をした。 鮫島と呼ばれた男は、 右手を上げただけでそれに答え、 さっきまで制服警官が座っていた 椅子に腰を下ろした。 そして、制服警官が書いた調書に 素早く目を通した後、 もう一度、友哉に同じ質問をした。 「君はさっき、薔薇色のホテルと、 そう言ったね」 「はい、さわ子は電話で、 看板を見つけたと言いました。 その看板に、 薔薇色のホテルと書いてあると。 そこへ行くと言っていました」 鮫島は、友哉のその話を聞いて、 何かを考えている様子だった。
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