第1章  遭難

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榊さわ子が行方不明になったのは、 九月半ばの日曜日、 夕方のことだった。 その日、さわ子は、 親友の緑川美夏と二人で、 朝から隣県のT山へ登山に出かけた。 さわ子と美夏は大学の同級生で、 同じ山岳部に所属していた。 一昨年に大学を卒業し、 別々の会社へ就職してからも、 二人は休日を使って、 よく山登りへ行った。 最初の頃は、登山ツアーに 参加したりしていたが、 そのうち物足りなくなって 二人だけで登るようになった。 同じ登山好きとは言っても、 さわ子と美夏は、 それぞれが全く違うタイプの 女性であった。 さわ子はロングヘアーで、 服も、パステルカラーのワンピースや 白のフレアスカートなど、 女性らしいものを好んだ。 もちろん性格も、 それに従うものだった。 美夏の方はと言うと、 ボーイッシュなショートカットに パンツスタイルを好み、 その色の多くはモノトーンだ。 さっぱりとしていて、 どちらかというと男に近いような、 そんな性格だった。 だが、そういう正反対な 二人だからこそ、お互いが、 自分の持っていないものに惹かれあい、 親友になれたのであろう。
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