第1章  遭難

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「もしもし、友哉」 「さわ子か、どうした?」 さわ子のいつもと様子が違う声に、 友哉は敏感に反応した。 「実は…遭難してしまったみたいなの」 今では、山によっては 山頂付近まで携帯電話の電波が 届くようになっている。 警察などにかかってくる、 遭難者からの救助要請の連絡も、 携帯電話からが最も多い。 だが、携帯が繋がるのは 山中でも開けた場所であって、 周りが木に囲まれていたりすると、 電波が不安定になったり、 繋がらないことも多い。 電話から聞こえるさわ子の声は、 とても不安定だった。 「遭難って…今、どこにいるんだ?」 「わからない…   いつの間にか、登山道を外れてしまって」 「救助要請の電話はしたのか?」 「ううん、迷惑かけたくないから、 自分達で何とか帰ろうとしたんだけど」 その時、電話の向こうで 「さわ子」と、名前を呼ぶ声が聞こえた。 友哉はそれが緑川美夏の声だと、 すぐにわかった。 電話から、さわ子が走っている様子が 聞き取れた。 どこかへ向かっているようだった。 恐らく、名前を呼んだ美夏の元へだろう。
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