第一話~猫の尻尾~

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俺は友人に勧められた探偵事務所へ来ていた。 もちろん依頼をする予定で来たのだが、事務所に入った時からそれを躊躇してしまっている。 緊張しながら入ったそこにいたのは、小さな女の子だったのだ。 俺が行っている大学からはそう遠くもない住宅街の外れにその目的地はあった。 外見は回りの民家とそんなに変わらないが、茶色い壁と庭の草花がいい雰囲気を醸し出している。 表札には確かに猫田探偵事務所と書かれている。 インターホンを鳴らそうと思い、周りを見渡すが、それらしきものは見つからない。 「誰かいますか?」 扉が開いていたので、開けて大きめの声で呼んでみたが返事はない。中に入って、スリッパに履き替える。 そこは、三畳くらいのスペースで、左右に扉が二つ。正面の壁には猫の写真が三枚。 「なんだこれ?」 写真に共通するのは猫の後ろに時計があることくらいだ。 わからないので腕時計を見ると、針は三時を指している。 当てずっぽうで、向かって右のドアを開ける。 「ようこそ。猫田探偵事務所へ。」 左から声がする。 見るとデスクの椅子から立ち上がろうとする女性がいた。 いや、女の子がいた。 「え?女の子?」 少女はなぜか少し嬉しそうにぷくっと頬を膨らまして怒る。 「子供じゃない!」 そう言って、スタスタと歩いてこっちへ来ると、少し背が高くなった。それでも、俺よりは少しだけ低かった。 というか、なぜ猫の耳と尻尾をつけている。 「私は大人だ!」 そうは言っていも、やっぱり疑わしい。 無意識の内に疑いの目で見ていたのか、少女は気が付いたかのようにハッとしたかのような顔をする。 「疑ってるね?」 そういうと再び奥のデスクに戻り、引き出しを開けて何かをとりだしたようだ。 大きな猫の顔がついた大きめのスリッパをペタペタと鳴らしながらこっちへ戻ってくる。 「ほらっ!」 掌の上の学生証を見てみると、確かに生年月日からすると、成人もしている大人だ。 探偵事務所にいるなら偽装の可能性もある。しかし、今はそこより気になる点があった。 「え?同じ大学!」 「え?」 二人そろって驚いた顔をしてしまった。 こんな格好をした人がいたら気付くはずだ。なぜ気付かなかったのだろうか? 再度確認しても、確実に学生証は俺と同じ大学のものだ。 「なんだ。後輩くんなのか」 少女はニコッと笑う。
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