偶然

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3人でコンビニへ向かった。 近くのコンビニは帰宅ラッシュでかなり賑わっていた。 土井は徳永から2万円を預かって、買い物カゴに沢山詰めていく。 徳永はコンビニの表で電話を受けていた。 「長丸、好きなものはどれだ?」 長丸はじっとして土井の脚に捕まっていた。 こいつ…コンビニに来た事がないのか? やっぱりお手伝いさんがいるお家か? 土井は取りあえず、子供が好きなものをカゴに入れた。 後は数日分の水とパンと牛乳を買った。 買い物が終わる頃、徳永がコンビニへ入って来た。 「買い終わったぜ」 「そうですか。長丸君、何か買って貰いましたか?」 徳永が長丸に訊くと土井の手を握って外へ出ようと引っ張った。 「何だよ、急ぐのか?」 土井は徳永の肩を叩くと長丸に急かされて表へ出た。 「長丸。徳永先生にありがとうは言えよ」 その言葉に耳を貸さず、長丸はどんどんと土井の手を引いた。 土井は長丸に引かれるままにコンビニから離れた。 その後を徳永がついて行く。 その時、1台のワンボックスカーがコンビの店頭に突っ込んだ。 ガラスの割れる音が夜の町に響いた。 「119に電話してっ!」 そう言うと徳永は事故現場へ向かい駆け出していた。 土井は震える手で電話を掛けた。 「長丸……お前は…」 長丸が土井の顔を見上げて微かに笑った。 土井は長丸の顔から目が離せなかった。 暫くすると、救急車と警察が到着して、コンビの前は野次馬で更にごった返した。 サイレンと人の怒鳴り声で騒然としている。 土井は長丸を抱きかかえてその場に立ち尽くした。 その時、土井のスマホが鳴った。 『徳永です。先に帰ってて下さい。もう少しかかりそうです』 そう告げられると電話が切れた。 「帰るぞ、長丸」 土井は長丸を抱えながらアパートに向かいながら考えた。 ……長丸は事故が起こる事が分かっていたのか? あのまま店頭で喋っていたら……俺たちが犠牲者になっていた。 土井は長丸が微かに笑った顔を思い出し、軽く身震いをした。
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