偶然

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土井はアパートに着くとコンビニの袋を開けて愕然とした。 長丸の為に買ったアイスクリームが半分溶けていた。 パンやお菓子の袋をドロドロに汚していた。 甘い香りが鼻に着いた。 流し台に放り込み周りを洗った。 ひと通り終わる頃、土井は長丸の姿を探した。 彼は気持ち良さそうにベッドの上で眠っていた。 土井は長丸をベッドの中に寝かせた。 「お前のお陰で助かったぜ」 長丸の頭を軽く撫でた。 土井はひとりアパートの外に出てタバコを吸った。 そこへYシャツの袖を捲った徳永が帰って来た。 「速かったね」 徳永は土井を見つけてアパートの外階段を足早に登ってきた。 「近くの病院の先生や看護師さんが来たので帰ってきました」 「意外に医者だったね」 「意外は余計です……」 徳永は土井が吸い始めたタバコを奪い取った。 そして、思い切り煙りを吐いた。 「こういう時はうまいです。禁煙失敗ですね」 徳永は笑うと直ぐにタバコを揉み消し、ネクタイを外して思いっきり伸びをした。 初夏の夜、冷たい風が二人の間を通り抜けた。 「ちょっとだけ見直してやるよ」 土井が徳永の肩を叩いて玄関のドアを開けた。 「…当分、彼女は出来ませんね…」 徳永はくすくすと笑った。 「気持ちワル、何を笑ってんだ?」 「何でもないです」 徳永は土井に笑い掛けた。 土井は首を窄めてアパートのドアを開けた。 「長丸くんは…?」 「眠ってる」 徳永はベッドを覗いた。 長丸の寝顔は天使のように可愛い顔だった。 睨まなきゃ……可愛い子供だ 徳永は台所に戻るとYシャツとネクタイに血が付いているのが分かった。 「参ったな……朝一でYシャツを買ってこないと…」 土井が徳永をよく見ると血塗れだった。 「酷いな……」 「困った……明日は静岡に行かないといけなくなったのに…」 徳永はそのままバスルームに向かった。 「僕の私物は何か置いてありましたか?」 土井はお泊まりセットを徳永に渡した。 「これだけだ。一緒に住んでいるような言い方は止めろ」 「そう……前はあったんですけどね。ここは僻地で…」 徳永は土井に頭を叩かれた。
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