偶然

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突然、土井のスマホが鳴った。 呼び出し音で会社からだと分かった。 「はい。土井です」 タバコの煙を吐いた。 「静岡へ…明日行け…ですか?」 土井は驚いた。 偶然にも程がある。 長丸の母親らしき従兄弟の朋ちゃんも静岡、徳永の出張も静岡、そして俺の出張も静岡…… 長丸の家探しでもしろと言うのか? 「分かりました」 土井は電話を切って、タバコを揉み消した。 子連れで静岡かよ…… 「また、タバコを吸ってますね」 風呂上がりで上半身裸の徳永がベランダに顔を出した。 徳永の癖でバスタオルを頭から被っていた。 メガネがないと若く見えた。 徳永は童顔を凄く気にしていて、わざとメガネにしていた。 黒縁の太いメガネ。 コンタクトにすると威厳がなくなるのだそうだ。 「俺も明日、静岡行きになった」 「利さんは営業車ですよね」 徳永が笑い掛けてきた。 「お前は乗せねぇぞ」 土井は徳永を押しのけて部屋に入った。 「すみません、僕のマンションまで…」 土井は徳永の被っているバスタオルで首を絞めた。 「お前は本当に…」 土井は頭半分違う徳永を上目遣いに睨んでやった。 ぐうううっ…。 土井の腹がなった。 「お腹が減りましたね」 徳永がニヤニヤと笑っていた。 土井はそのニヤケた徳永の顔にバスタオルを打つけてやった。 冷蔵庫から電子レンジで出来る天ぷらうどんを取り出した。 「天ぷらうどんですね。小腹にはちょうどいいかも…」 「食うのか…?」 土井は冷蔵庫からもう一つ取り出した。 面倒くさい野郎…… 冷蔵庫の脇にある電子レンジに天ぷらうどんを一つ入れて時間を見る。 3分半。 スタートボタンを押した。 土井は背中が熱くなるを感じた。 「鬱陶しいっ…」 振り向かずに一言呟いた。 土井は首に腕を廻され後ろから抱きつかれた。 「邪魔だぞ!こらっ!」 「美味しいそうです。天ぷらうどん」 徳永が耳元で笑っている。 「離れろ…天ぷらうどんをぶっかけるぞ」 土井は冷めた低い声で言った。 「久しぶりにどうです?」 「………」 土井は完全に無視を決めた。 土井の首筋に暖かい徳永の唇が触れた。 電子レンジのブザーが鳴った。 土井はレンジから天ぷらうどんを取り出してトレーの上に乗せた。
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