偶然

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「お前の分は自分で作れっ!」 土井は首に巻かれた徳永の腕を振り解いた。 コンビニで貰った割り箸を乗せてテーブルに着く。 「つまらないですね」 徳永は自分の分を電子レンジに入れた。 その傍で土井は天ぷらうどんを啜り始めた。 「本当にダメですか?」 土井はチラリと睨んだ。 徳永は土井の正面に座った。 「食べてからってことで…」 「マジでうどん…ぶっかけるぞ!」 電子レンジのブザーがピーピー鳴っている。 「止めろよ」 徳永はただこちらを見ていた。 土井は居たたまれず、電子レンジのブザーを止めに行った。 「食えよ」 そう言うと土井は残りの天ぷらうどんを食べようとテーブルに向いた。 その瞬間、土井は徳永に腕を取られてバランスを崩し、そのまましがみついた。 「いきなり腕を引く…」 徳永の唇がその言葉を無くさせた。 「天ぷらうどんの味がしますね」 懲りずに徳永が土井の唇を執拗に攻めてくる。 息苦しさに気が遠退きそうになって、土井の微かな意識の中に薄青色の着物がちらついた。 土井は力尽くで徳永を押し返し、肩で息を吐いた。 「二度と触るんじゃねぇぞ……」 土井は体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。 両手を床に付いて何度も大きく息を吸い込んだ。 「……利さん…大丈夫……ですか?」 徳永が土井の背中を撫でた。 土井は胃が逆流する感じを覚え、口元を抑えトイレに駆け込んだ。 また、だ……… 突然襲う嫌悪感で吐き気がする。 徳永がどうのと言うことではなく、いつもあの後で襲ってくる。 何かの映像……… フラッシュバック…… 俺は気がおかしいのだろうか…… 「……風呂に入る」 「顔が蒼いですよ」 徳永が心配気な顔をこちらに向けた。 「ここ片せよ」 一言告げると、土井はバスルームに逃げ込んだ。 シャワーをひねり頭から熱いお湯を浴びた。 気持ちと体の折り合いがつかない。 去年までは何でもなかった。 普通の生活が送れていた。 今年の正月くらいから体調が乱れていた。 その頃、館山に来た。 土井は徳永と離れるのにちょうど良いと思っていた。 その嫌悪感は徳永と離れても続いた。 しかも、倒れそうなくらい吐く時もあった。 内蔵が悪いのか?神経的におかしいか未だに分からない。 土井は頭の先にシャンプーをかけた。 もう……何も考えるな…… シャワーの音と泡だけが土井の体を包んでいた。
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