突然

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土井はアパートの駐車場から会社の営業車を階段の下で止めた。 静かなエンジン音。 館山へ来る時に車種がプリウスへ変更になった。 ……どうもピンとこない車だ… 土井は運転席から外に出てドアを閉めた。 ドアの閉まる音が聞こえたのか、長丸と徳永がアパートの二階から下りて来る。 土井は製薬会社のブルゾンを脱いで、助手席へ投げた。 それは鞄と背広の上に乗った。 土井のお気に入りYシャツが眩しい日差しに映えた。 そのYシャツは襟とカフスが白く、全体にグレーの細いストライプ型、ネクタイは濃いグレー色だった。 スーツの下は紺色のパンツで、痩せてベルトの穴が2つズレた。 長丸は階段を下り切ると駆け出して、土井の脚にしがみついた。 「すみません……赤坂のマンションまでお願いします」 徳永はTシャツにスーツの上着を着て、下はジャージ姿だった。 右手にぶ厚い鞄を持ち、面白い程チグハグな格好だ。 昨日の服を無理矢理に鞄へ詰め込んだ。 土井は長丸を後部座席に座らせる。 徳永は助手席に乗り込もうとしたが思い切り土井に睨まれた。 「お守りは後ろっ!」 徳永は仕方なく長丸と並んで座った。 「……赤坂まで…か…アクアラインだとすぐに川崎なんだけど…」 ルームミラー越しに徳永を見た。 「この姿で電車は…」 土井は軽く吹き出した。 「では、都内に向かいます」 土井はアクセルを踏んだ。 3人を乗せた車はゆっくりと走り出した。
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