突然

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土井の運転する車は館山道から高速道路を乗り継ぎ、昼前には徳永の赤坂のマンションへ辿り着いた。 徳永の部屋は17階の角部屋だった。 土井は徳永の部屋へ初めて訪問する。 玄関から既に高級マンション。 徳永の部屋は賃貸ではなく母親の所有物なのだそうだ。 「本当にお坊ちゃまだ」 よくもうちのアパートに転がり込んだものだ。 徳永が昨日着ていた服をゴミ箱に放り込んだ。 「マジかよ…」 土井は徳永の行動に驚いて声をあげた。 「血が着いたのは……不要です」 徳永はさらっと答えて何処かの部屋へ行ってしまった。 土井は長丸と見晴らしの良いリビングに居心地が悪く立っていた。 長丸はすぐに豪華マンションのリビングに慣れたのかソファの上で遊んでいる。 「お前もお坊ちゃまか…長丸」 直ぐに徳永は支度を済ませてリビングに姿を現した。 「1階のレストランで昼ご飯を食べませんか?」 そう言った徳永のスーツが高級に見える。 「僕の奢りですよ。ここまで来て頂いたので……」 徳永はにっこりと笑った。 その笑った顔が妙に憎たらしい。 余裕な笑顔か…… 土井の顔が不貞腐れた。 「長丸。行くぞ」 長丸は土井に駆け寄り手を繋いだ。 「あっ、土井だ」 長丸が指差した方へ目を移すと入院時に徳永と撮した写真がリビング入口の棚に置かれていた。 「キモイんですけど…」 土井は徳永を見た。 「初心忘れるべからず……です 」 徳永は澄ました顔で言ってのけた。 「恥ずかしいから捨てろ」 土井は背筋が寒くなった。 今から行く1階のレストランはこのマンション住居者用のお店だ。 他から人が来ることがない。 土井はこのマンションの値段が想像以上の物件だと感じた。 「2階にはジムとプールもありますよ」 広いエレベーターの中で徳永からマンションの説明を受けた。 別にそんな知識は要らない。 ここに住むワケではないのだから……いらん、世話だ。 「1部屋空いているので、利さん引っ越しますか?」 徳永は土井を見下ろして微笑んだ。 何だ?その余裕の笑いは…… 「結構です」 土井が断ると同時に高級感のあるエレベーターの扉が開いた。
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