突然

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エントランス脇にレストランの入口が見えた。 「いらっしゃいませ」 レストランのウエイターが挨拶をした。 徳永は軽く笑いかけると見晴らしの良い窓際の席を用意してくれた。 席につくなり、土井は口元に二本指を立てて徳永へ合図を送った。 徳永はテーブルに寄りかかり土井に言った。 「キスですか?いつでもしますよ」 土井は徳永の頭を叩いた。 「タバコだよ」 徳永は笑いながら左手奥を指した。 土井は豪華な喫煙所でゆったりとタバコを吸い出した。 徳永が金持ちの坊ちゃんだと気付いていたが、まさかここまで凄いとは考えていなかった。 何故、俺のアパートに転がり込んで来たのか訊きたくなる。 あれは、土井が就職した頃、突然夜中にそれは現れた。 徳永は謝りながら泊めて下さいと言ってするりと俺の内に踏み込んだ。 狭いアパートにはベッドはひとつしかない。 布団はない。 ソファなど有る筈もない。 「どうすんだ。寝るところはここしかないんだぞ」 「一緒じゃダメですか?」 図々しいが可哀想になって、土井は徳永をベッドの中へ入れた。 男2人が寝るにはかなりくっ着かないとベッドへ入れなかった。 徳永はすみませんと言ってメガネをテーブルの上に置きベッドへ入った。 凄く疲れているのかベッドに入ると徳永は寝息をたてて寝てしまった。 暫く俺はベッドの縁に寄りかかってタバコを吸っていた。 2時間した頃、仕方なくベッドに潜り込んだ。 細く空いた隙間に体を入れた。 すると、徳永の腕に手繰り寄せられた。 土井は驚いて徳永の顔を見ると眠っていた。 彼女と間違えて引き寄せたと思っていた。 俺は何故か体が暖かくなり、仕事の疲れも手伝って眠りに落ちてしまった。 ベッドがキツい筈が寝心地が良か った。 本当に良かった。 それが何日も続くようになった。 徳永が安定剤のように思えた。 そんな曖昧な友達関係が半年続いた。
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