突然

5/16
前へ
/67ページ
次へ
秋になる頃に突然それは起こった。 その頃になると土井は徳永が転がり込んできても大丈夫なように布団を用意してた。 その日もベッドの下に布団を敷いてやった。 「ねぇ、利さん」 「なに?」 ベッド脇でタバコを吸っている土井に声をかけてきた。 徳永に吸っていたタバコを取り上げられ灰皿でもみ消された。 「何すんだ」 「キスしてもいいですか?」 徳永はメガネのない童顔で迫ってきた。 土井はあまりにも変な言葉で笑ってしまった。 「ついにいかれたか?」 徳永の顔が真剣になればなる程笑いが止まらない。 「いいですか?」 「よくない」 まだ笑いが止まらない。 土井はベッドに座って笑った。 「それじゃ…女にもてないぜ」 徳永の顔がムッとしていた。 土井は益々可笑しくなった。 いきなり徳永にベッドに押し倒された。 「まてまて俺は彼女じゃないし…練習代は無理」 「彼女じゃないです。利さんに言ってます」 「もっと無理っ!」 徳永は倒した腕の力を緩めて、立ち上がるとアパートの部屋を出て行った。 暫くたっても帰ってこないので土井も笑いすぎたと反省してアパートの外へ探しに出た。 徳永はドアの前にいた。 「頭を冷やしてました」 「入れよ…」 徳永をアパートの中にいれた。 「…たく、冷えただろう」 土井は何を思ったのか両手を広げた。 「いいぞ、暖めてやる」 「利さん…」 徳永が抱きついてきた。 その背中を土井はさすってやった。 「本当にダメですか?」 「……男としたことないし…」 胸の奥で何かが鳴った。 何の音だ? 徳永の甘い香りが唇の上に降りてきた。 それは熱い包容に変わった。 唇の温かい感触が続きを確かめるように何度も攻めてくる。 「もう…いい…だろう…」 息苦しい…… 土井は徳永の身体を押した。 「何の匂い?」 「ブルーベリーガムを食べてました」 徳永は土井の鼻先でそう答えた。 「これでいいだろう…気が済んだか?」 「すみませんよ…」 徳永は前よりキツく唇を重ねてきた。 腕に力が入り腰も取られた。 力で押し返したいが押し切れない。 徳永の唇が首筋に流れて、腰に回した手がTシャツの中に入ってきた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加