突然

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「利さん…」 喫煙所から出た土井を見つけて徳永が手を振った。 年上なのに妙に子供ぽい笑顔を向けてくる。 「あっ、またオムライス」 黄色の卵にデミグラソースがかかっていた。 「利さんは肉を頼んでみました」 目の前に高級なステーキがジュージューと音をたてて置かれていた。 「食べて下さいね。痩せすぎは良くないですよ」 「栄養失調みたいに言うな」 土井は取り敢えず、肉を切って一口食べた。 「…う…うまい」 徳永が得意げに笑った。 隣の長丸はお子さまランチに格闘していた。 「長丸、口を開けろ」 小さく切った肉を長丸の口に入れた。 「うまいか?」 長丸は首を傾げながら口をもごもごさせていた。 その仕草が可愛いくて土井は笑ってしまった。 「完食っ!」 土井は言った。 久しぶりにボリュームのある食事を取った。 今日は本当に体調が良かった。 「かん…しょくっ」 長丸も真似して叫んでいた。 「よく食べました」 徳永は長丸を見て言った。 「デザートは何がいいですか?」 長丸は飽きたのかもぞもぞと動き出した。 「土井、おしっこ」 「えっ?」 土井は慌てて長丸の口を押さえた。 ちょっと周りを見たが数人の老夫婦が食事 を採っていた。 睨まれる事もなく土井はホッとした。 「おい、トイレは何処だ?」 小声で徳永に訊いた。 「エレベーターの脇にあります」 土井は長丸を抱えて急いでトイレに向かった。 「デザート…」 「要らん」 駆け出した土井はそう言った。 土井はトイレに入り長丸の半ズボンを下ろし便座に座らせた。 「…間に合った……」 ひとつ息を吐いた。 長丸が用を済ませた後、ついでに土井も用をたした。 手洗い場で長丸と一緒に手を洗った。 「土井、面白いの…」 「えっ?」 長丸は自動で水が出る蛇口で遊んでいた。 土井は長丸の言葉に懐かしい響きがあった。 「こらっ、遊ぶな。水は大事なんだぜ」 土井は長丸と手を繋ぐ。 「母上もそう言っていたぞ」 長丸は言った。 …母上って、こいつの家はどんな家庭だ?………… 徳永はトイレの側で待っていた。 「コーヒーとジュースを貰って来ました」 土井はその中を覗いた。 紙袋の中にカップが3個入っていた。
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