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土井は車のエンジンを掛けた。
「静岡って静岡市でいいのか?」
「静岡駅の近くでいいです。会議は夜ですから…」
「分かった。ナビで静岡駅へ出発します」
「長丸くん、長旅をよろしく」
長丸は徳永を睨んだ。
「僕だけ睨むの止めて下さい」
「本当に嫌われてるんだ」
土井は笑い出した。
「利さん、笑いましたね。今晩は絶対に寝ましょうね」
「降ろすぞっ!」
徳永はバックミラー越しにべぇと舌を出した。
「ムカつく」
3人を乗せた車は静かに走り出した。
車は快調に首都高を抜けて東名高速に入り、思ったより道のりは順調である。
5月中旬になると日差しが眩しい。
車内は軽くエアコンが利いていたが、フロントガラスからの日差しが暑く、土井はYシャツの第一ボタンを外しネクタイを緩めた。
得意気に通販で買った黒色のサングラスを掛けていた。
その土井は海老名SAで休憩を取るか迷っていた。
「喫煙タイムを取ってもいいでしょうか?」
「土井、おしっこ」
「またか?」
徳永は長丸の股を押さえた。
「海老名SAに入るぞ」
土井は車線を左に寄せて、SAのレーンに入った。
その時、脇を通り抜けた車が前の車と接触して数台の玉突き事故が起きた。
それを横目で見ながら土井はSAに入った。
……また…長丸のお陰…?
駐車場に着くと徳永は長丸を抱えてトイレに猛ダッシュした。
土井は喫煙所にゆっくりと向かう。
長丸は徳永に半ズボンを下ろされ子供用の前に立たされた。
「長丸くん、終わっても待って下さいよ」
徳永も長丸の側に立った。
用が終わった長丸はわぁーわぁーいいながら手を洗った。
自動蛇口が気に入ってるらしい。
「ちゃんと手を拭いて下さい」
徳永はしゃがんで長丸の手をハンカチで拭いた。
長丸は暫くじっと徳永の顔を見た。
「そなたが私……か……」
「………!?」
徳永はメガネの奥で目をパチクリさせた。
今のは何だ?……
「土井が呼んでるぞ」
長丸は徳永の手を引いて歩き出した。
のんびり休憩中の土井は缶コーヒーを片手にタバコを吸っていた。
煙を吐きながら先程の玉突き事故を思い返していた。
長丸のお陰で二回も事故から逃れている。
偶然だろうか?
静岡県も広いが何故か静岡市……俺と徳永の行き先まで一緒だ……
偶然にも程がある。
これで従兄弟の朋ちゃんが静岡市だったら恐ろしい偶然。
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