突然

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その時、土井のスマホが鳴った。 呼び出し音で実家だと分かった。 「もしもし…」 『利彦……』 母親からだ。 「何?」 『今、何処なの?』 「出張で、今は海老名にいるけど…」 『ちょうど良かった。従兄弟の朋ちゃんね、静岡市に居るわよ』 「マジで……俺、ちょうどそっちに向かってるんだげど、子連れで…」 『あらまあ……電話番号はね……090の』 「メモれないからメールして…」 『面倒な子ねぇ』 母親はそう言うとすぐに電話を切った。 「おい、母さん…」 普通、こんな急に切るか?…… ここまで一緒だとその場所に何か意味があるに違いないと土井は思いたくなった。 ちょうど徳永と長丸が土井のところに駆けて来た。 「事故処理で道が混んでそうだよ。名物のメロンパンでも買いに行くか?長丸」 長丸はにっこり笑って頷いた。 「土井、コーラが飲みたい」 長丸は土井の手を引いた。 「また、トイレに行きたくなるぞ」 「長丸くん、一緒に飲みますか?」 徳永は長丸を抱えて自動販売機に向かった。 あの二人、連れションしてから仲良くなったか? 土井は仕方なく後を追った。 メロンパンとコーラで休憩タイムを取った。 長丸はコーラの炭酸に変顔になって舌を出した。 「飲めないのに買うなよ」 土井は長丸の頬を突ついた。 徳永がミネラルウォーターを紙コップに入れた。 「コーラは僕が飲みますよ……ねっ」 長丸は怒りながら水を飲んだ。 「ありがとうくらい言えよ」 長丸は頬を膨らませて土井を睨んだ。 「土井と一緒に寝てやらんぞ」 「はあ?お前が勝手に人の家に転がり込んで来たくせに…」 土井は長丸に顔を寄せた。 長丸は土井の頬を引っ張り上げた。 「この口がウルサイ」 「痛っ…」 徳永が慌てて仲裁に入る。 「利さん、子供と口喧嘩して……」 徳永が呆れ顔で土井を見た。 その土井の顔が明らかに変である。 頬を押さえながら長丸に目が止まっている。 「……利さん?」 徳永は土井を呼び戻すように肩を叩いた。 「へっ?何…」 「何じゃなくて、大丈夫ですか?」 「俺がどうかした?」 「今、固まってました」 長丸は椅子から下りると土井の手を引いた。 「いくよ」 「おい、メロンパンは?」 長丸は土井ににっこり笑った。 「あとでよい」 「何?その態度は?殿様かっ」 土井は長丸の髪をくしゃくしゃと撫でた。
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