突然

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その時、徳永は土井の言葉にドキリとしていた。 ーそなたが私……か…ー 長丸の言葉が何度も頭の中で繰り返した。 長丸は何を知っているのか? 土井の前に現れたのは何故だ? それはきっと意味があるのだろうと徳永は思った。 二人が先に歩いて行ってしまい、慌てて徳永は後を追った。 それから土井たちが車を走らせる頃には、玉突き事故の処理は終わり車の流れも順調だった。 午後3時頃、静岡駅へ土井達は到着した。 長丸は後部座席で気持ち良さそうに眠っていた。 「無事に到着ですね」 徳永は笑っていた。 「この先にいつも利用しているホテルを予約して有りますが、利さんもそこで良いですよね?」 「そうだよな。ホテルは計算外だったな」 土井は大きく伸びをした。 「長丸の親探しは明日だ」 「先にホテルへチェックインします。仕事が終わったら先に泊まってて下さいね」 そう言うと、徳永は鞄を持ち車から降りた。 外気が車内に入り、長丸は寝ぼけ眼で徳永の顔を見た。 「長丸くん、また後で」 徳永は長丸に笑いかけて、後部座席のドアを閉めた。 「長丸。お仕事で3件行くぞ」 長丸は寝ぼけ顔でコクリと頷いた。 土井の車はゆっくりと走り出した。 一軒目は駅の近くにある医療関係の営業所。 近くの路上パーキングに止めようとすると長丸が騒ぎ始めた。 「何だ?」 「もう少し先に止めて」 「えっ……?」 土井は仕方なく車を前に進めた。 少し進めた所で長丸が叫んだ。 「土井、ここのパーキングだ」 「ここ?」 そこはビルの谷間の小さなパーキングだった。 「入れにくそうだな」 土井は長丸の言う通り小さなパーキングへ車を入れた。 土井は車を止めて驚いた。 今から行く会社の駐車場だった。 「お前……すげぇ」 土井は後部座席の長丸を見た。 何度か立ち寄っていたがこの場所は知らなかった。 土井は長丸を置いて行くわけもいかず、後部座席から降ろした。 営業用の鞄を持ち、製薬会社のブルゾンを来て営業社員に変身した。 ー子連れで営業って大丈夫なのか?ー 土井の不安をよそに長丸は楽しそうに土井の手を握って歩いた。 先程駐車するはずの場所にパトカーが駐禁処理をしていた。 「危ねぇ…捕まるとこだった」 また……長丸のおかげ……? 土井は長丸の顔をじっと見た。 長丸はニヤリと笑った。 「やっぱり…」 土井はちょっと背筋が寒くなった。
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