突然

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徳永がゴミを捨てながらベッドに目を向けた。 「すみません…煩かった?」 土井が体を起こして寝ぼた顔を向けていた。 「気にしないで寝てて下さい」 まだ、土井は言葉を理解していないのか徳永を見ていた。 徳永は土井のベッドに近づいて腰を下ろした。 「何です……僕を待っててくれたんですか?」 その言葉を聞いた土井はくるりと徳永に背中を向けると長丸を抱えてベッドの中へ寝てしまった。 「利さん…寝ぼけてたんですか?」 徳永はベッドから立つとバスルームへ姿を消した。 静かに土井は寝た振りで長丸を抱えていた。 「土井の心臓の音が聞こえる」 土井は長丸を見たが昨日と同じで寝言を呟いた。 長丸の言う通り土井の心臓の鼓動がドキドキと早くなっていた。 何故そうなったか自分でも良く分からない。 ……分からない方が良いと思った。 土井はすっかり目が覚めてしまい、冷蔵庫のビールを取り出した。 クローゼットの中の上着のポケットからタバコを取り出すと一本に火を点けた。 ビールの栓を抜いて喉の渇きを潤した。 「うめぇ…」 「あっ…ひとりで先に飲んでる」 バスルームから出て来た徳永が言った。 土井がその声に振り向くと徳永はいつものように頭からバスタオルを被っていた。 今日は珍しくメガネをかけていた。 徳永はバスローブ姿で冷蔵庫のビールを取り出した。 「ラス1。間に合って良かった」 「全部飲んだみたいに言うなよ」 土井はタバコの煙を吐いた。 徳永は笑いながら隣に座った。 「何で隣に座るかな?」 「いいじゃないですか?広いんだし…」 「反対のソファが空いてるだろう」 「こっちの方が利さん…」 土井は徳永に変な事を言われる前にタバコの煙を吹きかけてやった。 「…お疲れ様です。とかやりたかっただけじゃないですか?いきなり煙を吹きかけて…」 徳永は煙を扇ぎながらビールを飲んだ。 「あのさ…」 土井がビールを片手にタバコの火を消した。 徳永に顔を向けた。 「何で……?」 「………?」 徳永は土井の言葉の意味がつかめない。 「どうして……俺なワケ?」 土井は自分が何を言っているのかもうひとりの自分が驚いていた。
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