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あれから30分もしないうちに、アパートのドアをノックする音がした。
土井利彦は勤務する製薬会社の地方営業所所有のアパートに数ヶ月前から寝泊まりをしていた。
「………」
土井はベッドの中から目だけをドアに向けた。
また、ノックが続いた。
そこに誰が立っているか大方検討はついていた。
土井利彦はあの交通事故入院から3年が過ぎ、今は立派なサラリーマン!?…になっていた。
大学卒業ギリギリに就活成功で小さな製薬会社の営業に受かった。
どうにか超氷河期を乗り越えたのである。
それ以来、営業所毎のアパートを転々としながら暮していた。
今は千葉の館山である。
営業成績が悪く飛ばされた感は否めない。
布団から起き上がり、寝癖の立った髪を手櫛で直し、痩せた体を引きずるように玄関まで歩いた。
外見がまるで高校生である。
土井はドアを開けた。
「こちらに出張だったもので……会いにきました」
目の前にいる男はメガネの端を手でズリ上げた。
「何しに来たの…?」
「すみません…ひと月前の事をお詫びしに参りました」
土井が入院していた時の研修医の徳永秀忠が深々と頭を下げた。
こちらも今は立派なお医者様になっていた。
「いいよ。謝らなくて……面倒だから帰って…」
「えっ?」
相変わらずヒョロリ と背の高い徳永は驚いて土井を見た。
土井は面倒臭そうにドアを閉めようとした。
「待って下さい!」
「しつこいっ!」
「昼くらい食べに行きませんか?もう直ぐ3時になりますよ」
土井は腹が減っていることに今気付いた。
5分もしないうちに支度を済ませると、近くのファミレスへ仕方なく徳永と昼飯に出かけた。
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