唖然

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窓際のベッドがごそごそと動いた。 「起きたか?」 徳永は上半身起こしてボサボサの髪を撫でた。 「良く寝た……」 徳永はひとつ大きく伸びをした。 そうでしょうよ…… 土井は徳永の顔を見てツッコミを入れたくなった。 「シャワーを浴びてきます」 徳永は素っ裸でバスルームに向かった。 「ここは家か?」 その姿を見た土井の方が恥ずかしくなった。 「何か着ろよ、長丸が……」 長丸は徳永を気にも止めずにもくもくとパンを食べていた。 土井は気遣いに疲れて、パンを口に放り込んだ。 こいつら似た者同士だ…… 長丸が食べ終わる頃、徳永はバスルームを出てきた。 いつものように頭にバスタオルを被りバスローブを着て、ひとり掛けのソファに座った。 そして、テーブルに置いていたメガネをかけた。 「おはようございます」 徳永はコーヒーポットからカップにコーヒーを注いだ。 「熟睡されたようで…」 徳永はコーヒーを一口飲む。 「ええ、心おきなく…よく眠れました」 土井は呆れて天井を仰いだ。 「ところで長丸くんのお母さんと連絡が取れました?」 「これからだ」 「僕はこれから打ち合わせに行かなくてはならないので…何かあったらすぐに連絡して下さい。助けに行きますから…」 「いらんは……お前は新幹線で帰るんだよな」 土井は徳永をひと睨みした。 「えっ ?一緒に帰りますよ」 「……おい…」 土井は呆れてしまった。 「利さんと帰るに決まってるじゃないですか」 徳永が懇願してきた。 「俺の身が危険……」 土井は両腕をさすりながら長丸の荷物を纏めた。 クローゼットから上着を取り、紙袋と鞄と車のカギを持った。 「長丸、行くぞっ!」 長丸は土井に駆け寄った。 「徳永先生、どうもお世話になりました」 土井と長丸が一緒に頭を下げて部屋の扉を開けた。 そして、徳永に振り返って言った。 「新幹線で帰れ……アホっ!」 土井はべぇぇと舌をだした。 「ちょっと、利さん?」 徳永の声も虚しくドアが閉まった。
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