唖然

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あの騒動から1時間が経過した。 騒動とは…… まず土井はホテルの駐車場から従兄弟の朋ちゃんに電話をかけたが、留守電になっていた。 すぐに朋ちゃんから折り返しの電話があり、1時間後に駿府公園で待ち合わせする事になった。 『駿府公園も広いから弥次喜多銅像の前ね』と、朋ちゃんに言われた。 なので、土井と長丸は駿府公園で弥次喜多銅像を探した。 道行く人に訪ねてその案内通りに歩くと、公園の東角に立っていた。 朋ちゃんとの待ち合わせ時間は1時間後。 土井はここで1時間も待ってるワケにもいかず、長丸と公園へ遊びにお堀を渡った。 ぶらぶらと長丸を連れて歩いた。 本丸跡まで行けば家康の銅像があるらしい。 長丸は気持ちが良いのか走り回っていた。 子供は元気だな…… 土井は長丸に水を飲まそうと自販機で水を買った。 自販機から水のペットボトルを取り出し長丸を呼んだ。 「長丸…」 土井は声をかけたが長丸の姿が見えない。 「長丸……どこだ?……長丸っ!」 土井は何度も名前を呼ぶが長丸の声も聞こえない。 その時、土井の頭上を何羽かの鳥が飛びたった。 家康……? 土井は本丸跡へ走り出した。 「ヤバい……どこだ?」 土井は辺りを見回しながら名前を呼んだ。 走り続けて家康の銅像まで辿り着いてしまった。 「長丸……どこだ?……おい、返事をしろよ…」 土井は肩で息を吐いた。 その時、土井のスマホが鳴った。 「………」 『利さん……どうしました?』 徳永の耳に土井の息しか聞こえない。 「ヤバい……よ……先生……長丸が消えた……」 『えっ!長丸くんが…』 「水を買ってる間に居なくなった…」 『今、何処ですか?』 「えっ…!仕事だろ?お前……」 『いいから、何処ですか?』 徳永が珍しく大きな声を上げた。 「ええ…と、家康」 土井は目の前の銅像を見上げた。 『家康?』 「駿府公園の家康の銅像の下にいる。でも、ここで見失ったワケじゃないんだ……」 土井は辺りを見渡したが、やはり長丸の姿はない。 『いいから、そこで待ってて!すぐ行きます!』 土井のスマホにドアの閉まる音がした。 暫くすると電話が切れた。 ごめん……先生… 土井は下を向いてスマホの電話を切った。 スマホの時計が朋ちゃんとの待ち合わせ時間に迫っていた。 「長丸っ!」 土井はもう一度名前を呼んだ。
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