唖然

5/13
前へ
/67ページ
次へ
数分もしないうちに徳永が駆け込んで来た。 「いた……」 徳永はネクタイを緩めてスーツの上着を脱いだ。 そして、大きく息を吐いた。 土井はあまりに早い到着に驚いた。 「堀のすぐそこにいたので…」 一瞬、土井の泣きそうな顔に徳永はドキっとしてしまった。 「大丈夫ですよ」 徳永は土井に笑い掛けた。 「悪い……」 土井の素直な言葉に徳永はまたドキっとしてしまった。 「長丸くんは?」 土井は首を横に振った。 「この先を探すか…それとも元いた場所へ帰ってみるか…」 徳永は土井と反対側から公園内へ入って来た。 「僕が来た方向には子供はいませんでしたよ。」 その時、土井のスマホが鳴った。 「もしもし…」 『利彦くん?』 電話の相手は従兄弟の朋ちゃんだった。 土井は徳永の左手を引き寄せて、そこに付けている腕時計を見た。 朋ちゃんとの待ち合わせ時間が過ぎていた。 「あっ、ごめん。時間が過ぎてるね」 『それは、別に大した事じゃないけど…ここに……男の子がいるよ』 「えっ?男の子?」 『そうだよ…薄い水色のパーカーを着た子』 「長丸だ!」 土井は徳永を見た。 「今からそこに行くから待ってて!」 土井は電話を切った。 「長丸がいた!」 「どこに…?」 「待ち合わせ場所にいた…」 そう言うと土井は駆け出した。 徳永もその後を追った。 東御門からお 堀へ出て弥次喜多銅像が見えてきた。 30代の女性の脇に長丸が立っていた。 土井は長丸に抱き付いた。 「どこに行ってたんだよ…」 長丸はきょとんとしていた。 「十年ぶりだね。利彦くんでしょ?」 土井はその隣にいた女性に声をかけられた。 「ちょっと立派になっちゃって……中学生の時、ちんちくりんだったのに…」 土井を見て爆笑していた。 その女性は従兄弟の朋ちゃんだった。 「すみません、遅れて…お久しぶりです」 土井は立ち上がって挨拶をした。 その後ろに来た徳永が長丸の頭を撫でいた。 「こいつ探してさ…まさか、ここにいた何て思わなかったから、家康の銅像まで探しに行ってた」 朋ちゃんと目が合った。 「利彦くんの子供?」 「朋ちゃんのお子さんじゃないの?」 「やだ。私、独身だし子供もいません。誰がそんな冗談言ったの」 「えっ?」 土井の頭が混乱した。 うちの母さんがウソをついた…… あのババァ、適当な事言いやがって…
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加