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暫く土井は唖然としていた。
どう言う事だ……
土井は長丸を見下ろした。
幼い長丸は土井にニコリと笑いかけた。
その時、朋ちゃんは土井の腕を引いて小声で話しかけてきた。
「あの後ろに居る人を紹介しなさいよ」
「ええ…あれですか?」
土井は小さく徳永を指した。
従兄弟の朋ちゃんは首を縦に振った。
「紹介します。お友達の徳永先生です」
「先生…?」
朋ちゃんの目が大きくなった。
「内科の先生だよ」
朋ちゃんの目が益々大きくなった。
「始めまして、利さんには色々とお世話になってます」
徳永はのんびりとした口調で話掛けた。
「何用でこちらに…?」
「そこの病院の先生方と会議がありまして……」
徳永は女性に見つめられて恥ずかしいのか髪をぽりぽりと掻いた。
「まあ…いつもは東京ですか?」
朋ちゃんが食いつく勢いで訪ねた。
「ああ…」
徳永は上着の内ポケットから名刺を出した。
「東京で具合が悪くなったら、この病院に居ます。まあ、病気になられても困りますけどね」
徳永はにっこりと笑った。
朋ちゃんは徳永の名刺を見て吹き出しそうになった。
「凄い名前ですね…」
「もう、慣れました」
徳永が首の裏を掻いた。長丸が朋ちゃんの上着を引っ張った。
「お姉さん…この先生は変な人だから止めた方がいいよ」
土井が後ろから長丸の口を塞いだ。
「長丸、黙れ」
「えっ…この子の名前…長丸…」
朋ちゃ んは徳永の顔と長丸の顔を交互に見た。
「面白過ぎる…。この2人」
朋ちゃんは笑い出した。
3人は朋ちゃんを見ていた。
「だって、秀忠に長丸だよ」
昨日も支店長が長丸はご利益があるとか言っていた。
「しかも、ここだし…」
朋ちゃんは駿府公園を指した。
「この公園が何で……」
土井の質問が終わらないうちに朋ちゃんの携帯電話がなった。
朋ちゃんが電話に出て「わかりました」と、一言いうと電話を切った。
「ごめん。仕事が忙しくて呼び出しがきた」
朋ちゃんは「またね」と、言うと駅に向かって走り出した。
土井たちはそこへ取り残された。
「どう言うことだ……」
土井は徳永の顔を見た。
めちゃくちゃな話に訳がわからない。
それでも土井はひとつだけ理解した。
「俺……幼児誘拐…?」
徳永に笑った。
「そう……ですね…」
ふたりは長丸を見下ろした。
長丸は土井に抱き付いて笑っていた。
お前は、誰だ…長丸……
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