唖然

6/13
前へ
/67ページ
次へ
暫く土井は唖然としていた。 どう言う事だ…… 土井は長丸を見下ろした。 幼い長丸は土井にニコリと笑いかけた。 その時、朋ちゃんは土井の腕を引いて小声で話しかけてきた。 「あの後ろに居る人を紹介しなさいよ」 「ええ…あれですか?」 土井は小さく徳永を指した。 従兄弟の朋ちゃんは首を縦に振った。 「紹介します。お友達の徳永先生です」 「先生…?」 朋ちゃんの目が大きくなった。 「内科の先生だよ」 朋ちゃんの目が益々大きくなった。 「始めまして、利さんには色々とお世話になってます」 徳永はのんびりとした口調で話掛けた。 「何用でこちらに…?」 「そこの病院の先生方と会議がありまして……」 徳永は女性に見つめられて恥ずかしいのか髪をぽりぽりと掻いた。 「まあ…いつもは東京ですか?」 朋ちゃんが食いつく勢いで訪ねた。 「ああ…」 徳永は上着の内ポケットから名刺を出した。 「東京で具合が悪くなったら、この病院に居ます。まあ、病気になられても困りますけどね」 徳永はにっこりと笑った。 朋ちゃんは徳永の名刺を見て吹き出しそうになった。 「凄い名前ですね…」 「もう、慣れました」 徳永が首の裏を掻いた。長丸が朋ちゃんの上着を引っ張った。 「お姉さん…この先生は変な人だから止めた方がいいよ」 土井が後ろから長丸の口を塞いだ。 「長丸、黙れ」 「えっ…この子の名前…長丸…」 朋ちゃ んは徳永の顔と長丸の顔を交互に見た。 「面白過ぎる…。この2人」 朋ちゃんは笑い出した。 3人は朋ちゃんを見ていた。 「だって、秀忠に長丸だよ」 昨日も支店長が長丸はご利益があるとか言っていた。 「しかも、ここだし…」 朋ちゃんは駿府公園を指した。 「この公園が何で……」 土井の質問が終わらないうちに朋ちゃんの携帯電話がなった。 朋ちゃんが電話に出て「わかりました」と、一言いうと電話を切った。 「ごめん。仕事が忙しくて呼び出しがきた」 朋ちゃんは「またね」と、言うと駅に向かって走り出した。 土井たちはそこへ取り残された。 「どう言うことだ……」 土井は徳永の顔を見た。 めちゃくちゃな話に訳がわからない。 それでも土井はひとつだけ理解した。 「俺……幼児誘拐…?」 徳永に笑った。 「そう……ですね…」 ふたりは長丸を見下ろした。 長丸は土井に抱き付いて笑っていた。 お前は、誰だ…長丸……
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加