唖然

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これが騒動の顛末である。 あれから一時間が経ち、土井は長丸と一緒に駿府公園近くの駐車場で徳永を待っていた。 土井は徳永を待っている間に二人の言葉を思い出した。 1人目は昨日の支店長。 「長丸…ご利益がありそうだ」 2人目は従兄弟の朋ちゃん。 「秀忠と長丸だよ。面白ろ過ぎ」 と、言うことは『秀忠』で検索をかけたら何かが分かるのか? ここは駿府だし… 土井はスマホで検索をかけた。 画面上に赤文字で『不具合の為しばらくお待ち下さい』と表記されていた。 「また……か…」 土井はスマホを助手席に投げた。 「土井、あの男はまだか?」 長丸が後部座席から顔を寄せてきた。 「大人の都合もあるから少し我慢しな」 「久しぶりに行けるから楽しみだ」 「お前は本当に爺くさいな」 長丸は迷子になっている間に久能山東照宮のパンフレットを見つけ出した。 そこへ行きたいと長丸は言って土井と徳永を説得した。 そもそも迷子になっていたのは土井だったのかもしれない。 「何で行きたいんだ?」 「もしかしたら父上が迎えにくるかもしれない」 「マシで…」 土井は後部座席の長丸を見た。 「さっき迷子の間に電話してたの?」 長丸はにっこり笑うだけである。 そこへ運転席側の窓を叩く者がいた。 土井はそちらに顔を向けると中年の男性がそこに立 っていた。 その中年男はぺこりと頭を下げた。 土井は少しだけ窓を開けた。 「後ろの長丸くんを迎えに来た者です」 土井は長丸を見た。 「お前の迎えだって……知ってるか?」 長丸は首を横に振り顔が引きつっている。 「あんた…誰?」 土井は中年男を下から睨み上げた。 「小田と言います。先日から長丸くんが居なくなったとご家族から連絡がありまして、探していたのでございます」 「長丸。迎えだってぞ」 長丸は後部座席から土井に向かって叫んだ。 「このおじちゃんは知らないよっ!早く車を出してっ!」 長丸の顔が泣き出しそうになっている。 「おっさん、知らないって…」 土井は車のスタートボタンを押した。 「ちょっと待って下さい」 中年男はドアを開けようと取っ手を掴み、音を立てて引いた。 土井はアクセルを踏み込み中年男を振り切った。 バックミラーにその男が小さく見えていく。 土井の車は街中に走り出した。
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