唖然

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土井は久能山下の駐車場に車を止めて、長丸と久能山東照宮を徒歩で目指した。 後で気づいたが、日本平からロープウェイで行けば東照宮まで5分で到着するらしい。 山下の駐車場で訊いたところ東照宮まで長い階段1156段を登る。 ゴロ合わせで『いちいちごくろうさん』と言うらしい。 表参道の石鳥居をくぐると石段が始まる。 土井は登り始めて数段目で痛感した。 「本当にいちいちごくろうさんだよ……」 長丸の手を繋いで階段を登りだして、土井は誘拐犯になった事を忘れていた。 車を走らせている間は変な事ばかり考えていた。 確か殺人犯より誘拐犯の方が罪が重いんだよな… しかも幼児誘拐ってかなり重い筈… あのおっさんの話を聞いても良かったのかも…… さっさと引き渡して、長丸とさようならすれば良かった…… ここまで連れてきたら引き返せない…… 俺の人生ここまでか……… などと、考えは鬱屈として頭が重くなっていた。 土井はこの階段登りで思考回路を止めた。 永遠と続く階段を登って、909段目、一之門が見えた。 「長丸。凄いぞ……」 目の前に広がる景色が凄い。 海がキラキラと光っていた。 今までの鬱々としたものが晴れていくようだった。 土井は長丸と深呼吸をした。 「土井、水…」 土井は手にしていたペットボトルの水を長丸に渡した。 長丸は美味そうに水を飲んだ。 「土井も飲め」 「うまいっ!」 土井は長丸に笑いかけるとまた手を繋いで階段を登り始めた。 門衛所を通り過ぎると、ロープウェイから来る見物客と遭遇した。 もう暫く階段を登ると楼門が現れた。 いよいよ東照宮である。
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