唖然

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徳永は小田と暫く睨み合っていた。 土井と待ち合わせしていた駐車場に二人はいた。 この小田と言う男は真実を告げているのだろうか? 徳永はイラついて腕時計を見た。 すでに、ここで30分が過ぎた。 「ここにいても仕方ないでしょ。彼らを見つける事が先だ」 徳永は気持ちの整理が出来ない状態で冷静に答えた。 「そうですね。行き先は分かりますか?」 小田は淡々とした口調だ。 「タクシーで日本平へ行きましょう」 徳永は話が終わらないうちに歩き出した。 大通りに出てタクシーを捕まえる。 徳永と小田が乗車するとタクシーは緩やかに走り出した。 徳永は車窓に目をやりながら、30分前のやり取りを頭の中で整理を始めた。 「あなたが何を言っているか分からないです」 徳永は珍しく不快感を相手にぶつけた。 「ごもっとも……信じろと言う方が無理がある」 小田は納得してそう答えた。 「僕はこの世界で生きてます」 「分かってます。赤ちゃんの時からここにいます。ですが、あなたは未来から来た人間です」 「小学校、中学、高校、大学まで何の不思議もなく生きてきた……未来から来ました?SF映画かっ!」 徳永が呆れて天井を見た。 右手の拳が震えている。 徳永は感情を抑えるのに必死になった。 小田は攻めるのを止めて話を逸らした。 「長丸くんに何か言われませんでしたか?」 徳永の顔がはっとなった。 長丸のあの言葉が蘇った。 ーそなたが、私か…ー 徳永の息遣いが荒くなった。 「長丸くんはあなたと同じ遺伝子を持っています」 小田は一呼吸置いた。 「あなた達は同じクローンなんですよ。彼は知っています」 徳永は持っていた鞄を下に落とした。 「それを信じろと……」 小田の腕を思い切り掴んだ。 「あなたは最初の子供です。ある人の遺伝子を頂いています。 未来でも犯してはいけないルールがあるのです。あなたなら分かりますよね。生命の倫理です」 徳永の顔が段々と蒼白になっていく。 「それを未来の日本では平気で執り行っている。闇組織でね」
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