騒然

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騒然

土井はゆっくりと目を開けた。 青い空が飛び込んで来る。 男たちに囲まれ長丸を抱えて巨木へ滑り込んだところまで記憶は有った。 気付くと腕の中に長丸は居なかった。 土井は枯れ葉に埋もれた体を起こす。 その後ろに先程滑り込んだ巨木が立っていた。 辺りは見覚えある景色。 そこは長丸がいないだけで何も変わらなかった。 俺が気絶している間に、長丸は連れ去られたのだろうか? 土井は叫んだ。 「長丸っ!」 近くの木々を風が撫でていく。 それ以外の音はない……。 ざっざっざっ…… 遠くから小さな足音が近づいてくる。 「長丸?」 土井は巨木の前の山道へ出た。 薄青色の袴がチラリと見えた。 どこかで……見た……見た……… どこで………? その足音はゆっくりと近づく。 しかし、姿がはっきりとしない。 土井の耳に何が響いた。 ……あっ……夢だ……… あの……夢……… 着物と誰かの手しか見えない夢。 悪夢のように襲って来る。 土井はゆるゆると巨木へ後退りする。 心臓の音が耳に煩いほど波打ってくる。 肩で息をひとつ吐いた。 その足音は完全に自分の近くで止まった。 ゆっくりと足音が止まった右手側を見る。 そこに、夢で見た薄青色の小袖と袴を着た男が立っていた。 「……誰だ……お前……」 土井は低い声で力を振り絞って威嚇した。 恐怖で首の後ろにじわりと冷や汗が流れた。 その男はゆっくりと踏み出しこちらに近づく。 土井は男を睨み付けた。 「……長丸を返せ…」 その男はいきなり笑い出した。 「懐かしい………」 そう言うと男はずっと笑っていた。
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