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「笑ってんじゃねぇよっ!」
土井は一歩二歩と男に近づく。
「子供の命がかかってんだよっ!」
土井は男に殴りかかりそうな勢いで迫った。
「すまん。でも、笑いが止まらん」
まだ、男は笑っている。
土井の勢いづいた拳が男の顔を目掛けて飛び出した。
右ストレートはあっさりと避けられた。
左、右と続くが一発も当たらない。
土井は男に懐へ入られて投げ飛ばされた。
枯れ葉が綺麗に宙に舞った。
「痛っ……」
「相変わらず弱いの……」
投げ飛ばされて寝たままの土井の顔を男は覗き込んだ。
怒った顔を男に向けた。
「誰だと訊いているだろ!」
「忘れたか……阿呆」
土井は隙をみて男の脚を腕で引っ掛けて見事に相手を倒した。
「バカにしてんじゃねぇぞ!」
土井は素早く立ち上がり、男の着物の襟を掴んだ。
「……長丸は、どこだっ!」
「油断したは……」
男は力尽くで土井の手を振り解いて立ち上がっり、袴の裾を叩く。
「悪いが子供など知らぬ」
「なら、お前は誰だっ!」
土井はゆっくりと立ち上がった。
男はむっつりしながら土井の頬を引っ張り上げる。
「まだ、分からんか?」
「何するんだっ!」
その男の手を外した。
その時、何かの音が鳴った。
土井は記憶の奥底に眠る思いが湧き上がってくる。
その男の顔をじっと見た。
男は笑っている。
…その笑顔を俺は知っている……
何故だか土井の足が後ろに下がる。
触れてはいけない場所……
瞳の中にあいつがいた。
いた……
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