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ゆっくりと風が吹いた。
背の高い木々たちがざわざわと頭上で鳴る。
鳥が鳴きながら二三羽飛び立った。
土井は巨木に背中を預け、目の前の男を否定しようと必死で気持ちを抑えた。
「やっと思い出したか?」
男は腕組みしてこちらを見ている。
「………」
何故と言う言葉が土井の声にならない。
「話す気にならんかの……」
男は惚けた顔をこちらに向ける。
「お前らが教えてくれた通り将軍にもなったぞ……」
土井の脳裏に高校2年夏が思い出された。
……そうだ……
土井の部屋の片隅に古い写真が飾ってある。
メイド服の男が俺の隣で笑っていた……
一生封印した事が鮮明に蘇る。
「土井がそれでよいなら、私は還る」
男は神廟に向かい歩き始めた。
「………な……ぜ………?」
土井の小さな声に男は振り向いた。
「……呼んでいたではないか?」
「…呼んで…?」
土井は目を見開いた。
「……俺が……」
あの夢は俺が呼んでいたのか…?
心の奥に閉まった感情が呼んでいたのか…………
「……俺は……」
「約束通り…また、逢えたではないか?」
男は笑っている。
あの嫌みな曖昧な笑い方。
「何で来たんだよ……」
土井は駆け出して男の胸に拳をひとつ入れた。
「お前はズルい……ムカつく……ヒデ」
男の名はヒデ……
高校の同級生だった。
過去から迷い込んだ……殿様……
ヒデは土井の肩を軽く叩いた。
「おお…立派になったではないか。ちと、痩せたかな、土井」
土井はこの感覚をどこかで感じたことがあると思った。
………また、痩せましたね………
そう、誰かに言われた……
心配気な顔で………
「お前がびぃーびぃー泣いとるから来てしまったではないか?」
土井は泣きそうな顔でヒデを見た。
「泣くかぁ……バカ……」
ヒデは土井の頬を持ち上げて言った。
「この口は相変わらず可愛くないの…」
土井は真っ赤な顔で答えた。
「可愛いかったらキモいだろう」
ヒデの手を振り解いた。
「全く、土井のお陰で、ゆっくり墓の下に眠っていられないは……」
「……!」
「当たり前であろう。400年違うのだぞ……」
「確かに…」
同級生なのに不思議な関係である。
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