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「そなた、長丸とか言っておったな?」
ヒデは腕組みをして土井を覗き込んだ。
「ああ、7才の男の子だ」
ヒデは空を見上げて懐かしいそうにしていた。
「懐かしいの……」
「どうして?」
土井は不思議そうにヒデを見上げた。
「私の幼名は長丸だ」
「えっ?竹千代じゃないの?超有名だし……?」
土井は驚いた。
昔、爺様から教えて貰った事がウソになった。
「竹千代は跡取りに決まってから付けられた」
「だから……朋ちゃんが爆笑していたんだ」
土井は昼前の一件を思い出した。
「そんなに笑われる名前かの……?」
ヒデは土井の顔を覗き込んだ。
ごめん……
俺、爺くさいって笑ったぞ………
「悪かったは…爺みたいな名前で……」
「………!」
土井は肩がピクリとした。
「お前の阿呆面は直ぐに分かるは…」
「アホで悪かったな」
二人は思い切り笑う。
まるで高校生になったように笑っていた。
土井はヒデの顔を見て話したい事が沢山湧いてきた。
事故で入院して就活が苦しかった事や変な医者の徳永の事や僻地に飛ばされて鬱屈としている事。
沢山話して笑いたいと思った。
「……あのさ…」
その言葉にヒデが笑いながら土井を覗き込むと不意に風がふたりの間を通り抜けた。
何かの合図のように風が頬を撫でた。
「……なあ、ヒデ……」
土井はヒデに抱き締められた。
懐かしい香りが体中を包み込む。
「これにて……」
土井は上目遣いに背の高いヒデを見た。
「……俺は……」
ヒデは優しく笑っている。
「必ず……傍におるゆえ……」
土井はヒデの肩に顔を沈めた。
「必ず………」
土井の頬に5月の爽やかな風が吹き抜ける。
土井は木漏れ日の中ひとりで立ち尽くしていた。
泣くことも出来ず唇を噛み締めた。
その時、見上げた空は青く澄んでいた。
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